退職代行なら引き継ぎしなくて良い?損害賠償を請求されるケースやトラブル・リスク回避方法
最終更新日 2024年8月8日
退職代行の利用を検討している場合、「引き継ぎは必要なのか」気になる方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、退職代行を利用するしないに関わらず、引き継ぎをせずに会社を辞められます。しかし、引き継ぎなしで退職する際の注意点を把握しないまま退職代行を利用してしまうと、損害賠償請求などのトラブルが発生する可能性もあります。
そこで今回は、退職代行サービスを使った引き継ぎについて詳しく解説します。
本記事を読めば、引き継ぎなしで辞める場合のリスクを把握し、事前にトラブルを回避する方法がわかるでしょう。
退職代行を使った場合の引き継ぎは必要?
退職代行は、業務の引き継ぎをしなくても即日で辞められるケースが多いです。そもそも退職代行を使う・使わないに関わらず、基本的に会社側は退職する従業員に対して、後任への引き継ぎ業務を強制できません。
法律では、退職の意思表示から2週間経過すれば会社を辞められると定められていますが、労働者の引き継ぎを義務化する規定は記載されていないからです。
参考:民法627条
ただし、雇用契約や就業規則に引継義務が定められていることも多く、契約上の引継義務はありますので、次のような点に注意する必要があります。
退職の際に引き継ぎをしない場合のリスク・トラブル
退職代行を利用した場合でも、引き継ぎをせずに辞められますが、場合によっては会社とのトラブルにつながる可能性があります。引き継ぎなしで退職する場合の具体的なリスクやトラブルは、以下の通りです。
損害賠償を請求される場合がある
退職代行で引き継ぎを放棄して会社を辞めると、損害賠償を請求される可能性があります。
民法415条では、従業員が会社に損害を与え労働契約に違反するものであった場合、債務の不履行にあたり、その従業員への損害賠償請求が認められます。
参考:民法415条
退職代行を利用した人が会社から損害賠償を求められるケースの具体例は、以下の通りです。
- 退職前から長期間の無断欠勤を続けており、会社の連絡も無視している
- 引き継ぎをせずに退職した結果、会社が取引先を失う
退職代行で一方的に退職を告げ「引き継ぎを放棄」する行為は、従業員の過失とみなされ、損害賠償請求を受ける可能性があるのです。
ただ、引き継ぎができない理由として会社側に責任があるケースもあります。「業務に引き継ぎが必要ない」「上司からパワハラを受け出勤できなかった」などの従業員の労働環境によっては、損害賠償を求められない場合もあるのです。
会社や顧客から連絡が来る可能性がある
退職代行で引き継ぎをせずに仕事を辞めると、会社や顧客から連絡が来る可能性があります。場合によっては、上司などが直接本人の家を訪問するケースや、取引先から直接連絡が来ることも考えられるでしょう。
会社や顧客が退職した本人に連絡するのは、引き留めや業務の進め方の確認などを目的とする場合が多いです。特定の業務において、本人しか知らない情報があると、直接連絡が来る可能性は高くなります。
上司から「引き継ぎをしてほしい」と協議を持ちかけられる可能性はありますが、心理的負担が大きければ拒否することは可能です。心理的負担が少ないのであれば、会社の要望に応え、円満退社することも候補に入れておきましょう。
懲戒処分扱いにされることがある
退職代行で引き継ぎを放棄すると、懲戒処分扱いにされる場合があります。会社の就業規則や雇用契約書によって細かい内容は異なりますが、懲戒処分を受けると、給与や退職金の減額・不支給という処分が下されるかもしれません。
一般的に「引き継ぎをしなかったから」という理由だけで、従業員に懲戒処分が下されるケースは少ないようです。
しかし、無断欠勤中に退職代行を利用した場合や、退職前から欠勤を繰り返している状況では注意が必要です。引き継ぎの放棄と無断欠勤という行為が重なれば、会社の損失も大きくなりやすいため、懲戒処分を受ける可能性が高まります。
そのため、退職代行の利用する際は欠勤を避け、就業規則の懲戒処分の条件に自分が当てはまらないか事前にチェックしておきましょう。
会社を辞める際に退職代行を利用する3つの利点
退職代行を利用する利点には「手続きが不要になる」や「会社の人に会わなくて済む」といったものがあります。来社して退職の手続きをしなくて良いのが、大きな利点です。
会社を辞める際に退職代行を利用する3つの利点
- 退職の手続きを進めてくれる
- 引き継ぎをしなくて済む
- 会社の人に会わなくて良い
以下の項目では、会社を辞める際に退職代行を利用する利点を3つご紹介します。退職代行を利用すべきか迷っている方はぜひご覧ください。
退職の手続きを進めてくれる
退職代行では、退職に関するほとんどの手続きを代わりに行ってくれます。自分で行うのは退職届の作成や送付、返却物の郵送だけなので、簡単に退職できるのが利点です。
自力で退職する場合は、退職届を上司にわたしてから、退職できるかの交渉を行った後、退職日の調整と有給取得日の希望を伝え、返却物を返却するといった手続きが必要になります。会社によっては、所定の申請を行う必要もあるでしょう。
退職代行の場合は「退職意思の有無」「有給をいつ取りたいと考えているのか」などについて、業者が代わりに伝えてくれます。自宅にいながら手続きが進むので、精神的・肉体的な負担なく退職できるでしょう。
引き継ぎをしなくて済む
退職代行を利用すると、基本的には引き継ぎをしなくて済みます。専門家が退職手続きを代行してくれるため、最短期間で辞められるためです。多くの場合、退職届を提出してから2週間、もしくは即日で退職できます。
ただし、引き継ぎをせず強引に退職して会社に何らかの損失が発生した場合、損害賠償請求がされる可能性があります。多くの場合は問題なく退職できますが、業務の根幹に関わるような重要な業務を担当していた場合や、重要システムに関する取り扱い方法などに関しては、最低限の引き継ぎはしておいたほうが無難です。
会社の人に会わなくて良い
退職代行では、代行業者が会社に訪問して代行業務を進めます。そのため、退職する本人は会社へ訪れる必要がありません。パワハラやセクハラなどで辞める場合でも、上司に会わずに辞められるので安心です。
また、退職するので会社の人に会うのが気まずいと感じる方も多くいるでしょう。そうした場合も、会社の同僚や後輩などに会わずに辞められるので、精神的にとてもラクになります。
なお、退職届や返却物に関しては郵送で対応して問題ありません。会社からの書類(退職関連の手続き書類や離職票など)も基本的には郵送で対応してもらえるので、一度も来社せず退職できます。
退職する際に引き継ぎをした方が良いケース
退職する際に引き継ぎをした方が良い具体的なケースは、以下の通りです。
会社から物品を貸与されている
会社からの貸与物がある場合は、退職する際に職場へ返却するか後任へ引き継ぐ必要があります。貸与されている物品を返却しなければ、損害賠償請求や、情報漏洩の疑いなどのトラブルが発生するかもしれません。
返却すべき貸与品として、以下の例があげられます。
- 健康保険証
- 社員証や名刺
- 通勤用の定期券
- タブレットやPCなどの電子機器
- 業務に必要な書類やデータ
- 制服
貸与物の返却や引き継ぎは、原則退社日までに自分で郵送する必要があります。
就業規則で義務化されている
就業規則で義務化されている場合、退職時に引き継ぎが求められます。
会社の就業規則によっても異なりますが、退職金をもらう要件に引き継ぎが必要とされているケースもあります。退職金の支払いは義務ではないので、支給の可否や減額に関する要件を自由に決められます。
就業規則に定められており、引き継ぎをせずに辞めると、退職金を減額されるかもしれません。また、重要なプロジェクトを任された状況で放棄すると、有給休暇の時期をずらされ欠勤扱いになったり、退職金が支給されなかったりと、退職者にとって不利となるケースもあるでしょう。
そのため、退職代行を利用する際はあらかじめ会社の就業規則を確認しておくことが重要です。
取引先や会社に多大な損害が出る
取引先や会社に損害が出る場合、退職代行を利用した際に引き継ぎをした方が良いと言えます。従業員の業務を怠ったことによって大きな不利益を被った場合、会社はその従業員に対して損害賠償を請求可能だからです。
実際に、従業員が突然退職した際に、会社の損害賠償請求が認められた判例もあります。具体的な内容を簡単にまとめると、以下の通りです。
判決 | 突然退職した従業員が70万円の支払いを命じられた。 |
事件の概要 | ・取引先とのプロジェクトを遂行するため、従業員を採用したが、入社後すぐに欠勤し退職。
・取引先との契約が解約され、会社は1,000万円の利益を失ったと主張。 ・従業員との交渉の末、200万円を支払うことで同意したが、支払われなかった。 |
裁判所の判断 | ・給与や経費を差し引けば、1,000万円の実損額にはならない。
・従業員を採用した会社にも責任・不手際があるので、200万円の約1/3にあたる70万円の遅延損害金の支払いが妥当。 |
参考:厚生労働省 退職 – 裁判例「ケイズインターナショナル事件」
基本的に、退職代行で引き継ぎをしなかっただけでは損害賠償請求を命じられることは多くありません。ただ、突然退職により会社へ大きな損害を与える可能性がある場合は注意が必要です。
退職をする際に引き継ぎしなくても良いケース
退職をする際に引き継ぎしなくても良い具体的なケースは、以下の通りです。
会社から引き継ぎなしの許可を得ている
会社から引き継ぎなしの了承を得ている場合、退職代行を利用しても安全に辞められる可能性が高いです。引き継ぎなしの了承を得るためにも、退職前に上司から事前に許可をもらうか、代行業者に確認してもらいましょう。
退職代行の運営元が、弁護士や労働組合以外の「一般企業」である場合、会社と交渉できませんが、業者を通して本人の意向を伝えることはできます。制限はありますが、一般企業でも引き継ぎなしを希望する旨を伝えられるので覚えておきましょう。
引き継がなくても業務に支障がない
引き継ぎをしなくても業務が滞りなく進む場合、トラブルなく退職できる可能性が高いです。代わりが効く仕事や、自分の担当業務が一通り終わっている場合などは、本人が突然退職しても損害は小さくなります。
損害賠償請求を受けるのは、会社に大きな損害が出たケースで多いため、業務に支障が出ない場合は安心して辞められるでしょう。退職代行における引き継ぎなしのリスクを回避するためにも、一通り業務を終わらせておくことが重要です。
退職代行を利用し、業務を引き継ぎがない場合のリスクを回避するポイント
弁護士に交渉してもらう
一般的に、退職代行サービスの運営元は弁護士・労働組合・一般企業の3つです。3種類の内、会社と給与や業務に関する交渉ができるのは、弁護士と労働組合のみで、一般企業は違法行為となります。
可能な限り安全に退職したい場合は、弁護士や労働組合が運営する業者に依頼する場合が多いです。ただ、依頼費用が高くなったり、弁護士以外は交渉できる範囲に制限があったりと、それぞれの運営者にメリット・デメリットがあります。
退職代行サービスで安全に辞めたい場合は、自分の目的に合った運営元を選ぶことが重要です。
非常識な辞め方はしない
退職代行の引き継ぎなしのリスクを回避するためにも、非常識な辞め方は避けましょう。具体的には、無断欠勤を繰り返した末の辞職、重要な仕事を任された状況や入社直後の突然退職などです。
モラルのない辞め方で会社に大きな損失を与える場合は、損害賠償請求などのトラブルが起きる可能性が高まります。
引き継ぎが必要ない状態まで仕事を終わらせたり、後任が自分の業務を1人で担当できるよう育てたりと、可能な限り迷惑がかからないように退職代行を利用すれば、トラブルが起きにくくなるでしょう。
簡易的な引き継ぎ書を作成しておく
退職代行を利用する際は、簡易的な引き継ぎ書を作成しておきましょう。引き継ぎ書を作成していれば、会社からの連絡や損害賠償請求などのトラブルが起こる可能性が低くなります。
一般的な引き継ぎ書に必要な項目は、以下の通りです。
1.担当業務の概要や目的
2.各業務の優先順位
3.対応中の業務における進行状況
4.トラブルへの対応やリスクを防ぐ方法
5.業務に関する書類や資料の保管について
退職代行で起こり得るリスクを抑えるためにも、簡易的でも良いので引き継ぎ書を作成しておきましょう。
退職代行の引き継ぎリスク・トラブルに関するよくある疑問
退職代行を利用する際に注意したいのが、引き継ぎトラブルです。まったく引き継ぎをせずに退職してしまうと、思わぬトラブルを招くリスクがあります。これから退職代行を利用して即日退職しようと考えている方は、以下の質問に答えられるようにしましょう。
退職代行の引き継ぎリスク・トラブルに関するよくある疑問
- 引き継ぎをしておくタイミングは?
- 引き継ぎ無しで退職代行を利用する方法はある?
- 懲戒解雇・賃金不払いになった場合の対処法は?
上記のようなよくある質問について、この後くわしく解説していきます。引き継ぎに関してお悩みの方は、ぜひ以下の項目をご覧ください。
引き継ぎをしておくタイミングは?
内容にもよりますが、1〜2ヶ月前には引き継ぎをしておいたほうがよいでしょう。原則として、一般の会社員では2週間前に退職届を提出すれば退職できますが、2週間で引き継ぎを行うのは困難な場合も少なくありません。
もちろん、体調不良やパワハラなどが理由であれば、最低限の引き継ぎをしてすぐに辞めても問題はありません。しかし、引き継ぎをしっかりと行わないと、残っている社員に迷惑がかかってしまいます。
転職後も、もしかしたら辞める会社の人間と関わる機会があるかもしれません。会社に対して良い印象がなかったとしても、引き継ぎはしっかりとしてから辞めたほうが無難です。
引き継ぎ無しで退職代行を利用する方法はある?
退職代行では、基本的に引き継ぎをせずとも会社を辞められます。代行業者が会社に訪問して代行業務を行うので、辞める本人は自宅にいながらでも退職手続きができるのです。どうしても引き継ぎをしたくない場合でも、退職代行を利用すれば問題なく退職できます。
しかし、まったく引き継ぎを行わずに急に退職した場合、損害賠償請求をされる可能性がゼロではありません。会社の重要な業務を担っており、退職によって業務が完全にストップしてしまったり、重要な契約がなくなってしまったりした場合は、損害賠償請求をされるケースも考えられるので注意しましょう。
懲戒解雇・賃金不払いになった場合の対処法は?
退職代行を利用した場合、懲戒解雇や賃金不払いになる可能性もまったくないとは言い切れません。もし、懲戒解雇や賃金不払いになってしまった場合は、まず「解雇理由証明書」や「退職理由証明書」を請求しましょう。労働基準法第22条において、労働者が解雇理由や退職理由に関する証明書を請求したときは、企業は遅延なく発行しなくてはならないと定められています。
証明書を確認したうえで、不当な懲戒解雇や賃金未払いだと思ったら、弁護士に相談してください。弁護士であれば、裁判も含めてさまざまな対処法を提案し、サポートしてくれます。
参考:厚生労働省『労働基準法』
退職代行サービスは引き継ぎのサポートを受けよう!
今回は、退職代行で辞めても引き継ぎが必須ではないことや、起こり得るトラブル、リスクを回避する方法について詳しくご紹介しました。
退職代行を利用する・利用しないに関わらず、引き継ぎが強制されることはありません。一方、引き継ぎをしないことで会社に大きな損失が出る場合は、損害賠償請求を受けるなどのリスクもあります。
退職代行の利用で可能な限りリスクを回避するためにも、引き継ぎ書を作成しておくなどの対策を行いましょう。
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